2018年 7月 日配信
キルギスの昔話 その4 2018年5月作成
以下の題材は、キルギスの昔話 “ARXI” 2005年刊 によります。この本の内容は主に1960~70年代に学生たちが各地方の住民に聞き取り調査を行い収集したもので収録地が偏っているのは地域を指定したためです。
<イシククリ湖はこうしてできた> (題名の表記はロシア語)
イシククリ湖についての話は数多くあり極一部の紹介になります。キルギス語では「ウスク・コル」で「熱い湖」の意味です。
1.大地が水に変わった Зимля Превратилась в воду
イシククリ州 1966年 フルンゼ村で収録
遠い昔の時代、今イシククリ湖がある所にキルギスとは別の部族が住んでいた。キルギス人は彼らと仲良くしていた。その誇り高い部族に一人の美しい女性がいた。両親はその女性を富豪の老人に嫁がせたかった。しかし本人はその婚姻を嫌っていた。彼女は両親に抵抗するつもりではないが怒ってこう言った。「この大地を水に変えなさい、そしてそこで死なせて。風が音を立てる度に私の消えない訴える声を人々に聞かせて。」そしてそれは起こった。大地は水に変わり巨大な湖ができた。風がおきる度に聞き取れないほどの音が聞こえる。それは罪なく不幸にさせられた女性の声だ。
2.魔法使いと美女 Колдун и Красавица イシククリ州
1972年 グリゴリエフカ村で収録
昔、ある街があってそこを魔法使いが襲った。魔法使いは街の美人を見て結婚すると決めたのだ。人々は女性が魔法使いから逃れるよう助け、町から逃げさせた。彼女は山に入り魔法使いは見つけられなくて苛立ち周りを破壊した。それから大岩を掴み山から街に投げつけた。その場所にイシククリ湖ができたのだ。
3.なぜ湖の水は塩っぱいのか Почму в озере вода солёная
イシククリ州 1966年 チョン・ジャルグルチャック村で収録
ある男に二人の息子がいた。二人は成長して兄は金持ちになったが弟は貧乏だった。貧乏で家族に与えるパンもなかった。ある日、猟に出て弟はキジバトを捕えた。キジバトは人間の声で言った。「私を放して。そうしたらお礼をします。」貧乏な弟はお礼の石臼をもらった。金持ちの兄はこれを横取りしようとした。夜、兄は弟のボズイ(移動式テント)に忍び込み石臼を盗んだ。兄が盗んだ臼を遠くに隠すよう小舟に運んだ時、臼が回り出し小舟は塩で一杯になった。もう船から塩がこぼれ出したが兄にはまだ不十分だった。兄は塩をかき集めて湖へ漕ぎだした。やがて塩で一杯になった小船と欲深い兄は沈んでいった。臼は塩を出し続け、それからイシククリ湖の水は塩っぱくなった。
4.塩入れ Солонка イシククリ州
1968年 ミハイロフカ村で収録
ある善良な人が一人の貧乏な女に料理を作る魔法の塩入れを恵んだ。いつも彼女は家に帰るとすぐ家にたくさんの客を呼んだ。客たちはしばらくご馳走を食べないでいて、どこでこのたくさんの料理を作ったのかと驚いていた。女主人は塩入れを見せた。客の中に金持ちがいてそれは女主人を羨ましがる欲深い男だった。男は塩入れを盗み走り去った。泥棒は小舟に座り塩入れに言った。「塩を出せ!」。塩はたくさん出て小舟一杯になって、もう男がいる場所もないほどだった。それで男は「もう要らない、もう要らない!」と叫んだが男は塩入れを止めさせる方法を知らなかった。塩入れは欲深い金持ちが沈むまでどんどん塩を増やした。このことがあってイシククリ湖は塩っぱくなったのだ。
<昔昔に> (題名の表記はロシア語)
1.魚の怪物 Жаян— Рыба イシククリ州
1972年 グリゴリエフカ村で収録
イシククリ湖にはジャヤン・ルイバ(魚の怪物)がいる。それはとても巨大だ。ただ尾だけで木造船を切断して沈めてしまう。それでここの船は金属製になったのだ。
2.なぜカッコウは卵を孵さないか Почему Кукушка не выси‐
живает яйца イシククリ州 1975年 ボコンバエ村で収録
いつの頃かキルギスには輝かしい勇士エル・タブルドゥがいた。戦いで彼は足にけがを負いナリンにある魔の山で治療した。その時彼は近くにカッコウを見て頼んだ。「私に翼で食べ物を、くちばしで水を持ってきてくれ。」カッコウは食べ物と水を持って来たが自分の巣を忘れてしまった。それからカッコウは卵を自分で孵さないで他の鳥の巣にこっそり置くようになった。
3.賢い男の子 Мудрый Мальчик イシククリ州
1972年 グリゴリエフカ村で収録
昔イシククリ湖の沿岸に君主が住んでいた。彼はとても無慈悲だったのでいつも年貢のことで領民を捕えて罰していた。貧乏人はシャコ(ウズラより大型の鳥)やキジ、ウズラを持って来た。ある時、君主は40人のお供、タカと犬を連れ狩りに出かけた。途中で動物の檻に入っている少年に遭った。君主は「お前はここで何をしているのか?」と尋ねた。少年は「僕はキジやウズラを君主と奥様のために捕まえるんだ。」と答えた。「もし何も持ってこられなかったらどうするか?」という問いに「君主の機嫌を損ねるより神の罰があった方が良い。」と答えた。それから君主は領民の年貢を少なくした。
4.カリツォフカ村について О кольцовке イシククリ州
1966年 チョン・ジャルグルチャック村で収録
今のカリツォフカ村がある所には、昔まだ人々がいない時代に4本の大木が立っていた。ある時そこに4人の人たちがやって来て木を切るかどうかを話し合った。3人は切ることにしたが4人目は反対した。3人は切り始めた。最初の木を切ったら血が流れ出た。2番目の木からは牛乳が流れ出た。3番目の木を切ったら蛇が飛び出して3人に飛び掛かり3人は死んでしまった。が4人目の人は助かった。この人からカリツォフカの村が始まった。4本目の木は、ほらそこに今立っいる。以前は木曜日になると木の近くから火が燃え出した。しかし今はもう燃えなくなった。
5.姉さん Эжеке イシククリ州 1975年 ボコンバエバ村で収録
ある富豪の娘が4歳の弟に贈りものとして足の速い雌馬を届けさせた。そして自分は若者と弟の所に出かけた。弟は家に帰って来て姉を呼んだ。「姉さん、馬の乳を搾って!」すると、弟は毎年秋にこの土地に渡って来る小さな灰色の小鳥に変身し鳴いた。「エジェケ ベエサア!」。これは「姉さん、馬の乳を搾って!」という意味だ。
6.願掛け母神(ウマイ・エネ) Ымай-эне イシククリ州
1975年 ボコンバエバ村で収録
石でできた女性の神、それがウマイ・エネだ。彼女が置かれている場所は神聖な場所だ。そこへ病気や不妊の女性たちがお供えや羊肉を持ち、ウマイ・エネ油を届けお参りする。人々は一心にイシククリ湖の主、白い猫の姿をしているウマイ・エネを拝む。言われているのは湖の主は魚の形になったり子羊の大きさになったりするという。彼女は湖の底へ案内する。私(語り手)はその神聖な場所に行ったことがある。なぜなら頭痛に悩んでいたから。そこに行ったらそれが治まった。一心にどこが治ってほしいか伝え、我に返った時、何も痛みがなくそれから病むことがなくなった。
7.ワシ Орёл タラス州 タラス地区で 1979年収録
19世紀のこと、貧乏人のエシムという人がいた。彼には敏捷で目が良く強いワシがいた。このワシのおかげでエシムはいつも狩りからたくさんの獲物を持ち帰り村の人たちに食べさせた。この輝かしいワシの話はサマクという富豪も聞いた。富豪は自分にもこのような評判を願いワシを取り上げることにした。富豪はエシムの所に馬の群れを贈り物として持って来た。しかし貧乏人エシムはこの富を断った。それで富豪は仕返しをすることにした。
ある日、エシムが仲間と狩りに出かけた時、富豪は若者たちと家にやってきて娘を誘拐した。途中、敵の富豪と出会ったエシムはワシを放した。彼は富豪を高く持ち上げ地面に投げ下した。若者たちは方々に散ってしまった。エシムは意気揚々と娘、戦利品、仲間とともに歌いながら家に帰った。
(キルギスの昔話 終わり)